京念珠の「中野伊助」で、
その歴史と想いに触れる。
京念珠
一七六四年・明和元年に創業された、
歴史ある「京念珠 中野伊助」。
貴重な紫檀を材料に用いた
一〇八の珠に想いを込めて、
京念珠を製作しましょう。
十代目店主・中野恵介氏から、
京都の密かなパワースポットに関する
奥深いお話しも伺えます。
今からおよそ255年前、「中野伊助」は1764年・明和元年に創業。滋賀県彦根が同店の起源とされており、近江国彦根藩主井伊家付きの職人として活躍していたそうです。元々は「近江屋伊助」という屋号で商いを行っており、井伊家が京へ上がると共に京都の地へ。幕末に起こった‟蛤御門の変“など戦乱の世を乗り越え、255年に渡って同じ場所で京念珠を造り続けています。機械製造が発達した現代でも木実や天然石を用いてひとつひとつ手作業で制作されている京念珠。中野伊助は確かな品質の製品を世に生みだし続けています。
念珠は数珠とも呼ばれ、一見簡単に見える製法は熟練の技が必要な繊細な手作業。製造の9割を京都が占めています。念珠の起源は遥か昔、国中に疫病が流行り困っていた波流離国の王にお釈迦様が「百八の木槵子の実をつないで、いつも手にして心から三宝(仏・法・僧)の名を唱えなさい。そうすれば煩悩が消え、災いもなくなります。心身も楽になるでしょう」と語ったことが『仏説木槵子経』に説かれています。しかしながら「過去無量恒河沙の諸仏の説くところ、一百八数を念珠の量となす」と記している経典もあり、その起源はお釈迦さまよりも古く、所説存在するようです。念珠が仏具として僧侶以外の一般人にも普及されたのは鎌倉時代以降のことだそうで、中野伊助も創業当時は寺付きの職人を行っていました。また、念珠には如意宝珠のような除災招福の仏神力があり、持っているだけで魔除けになるとされています。珠の数にも意味があり、珠数の基本は108。それは除夜の鐘を108回撞くのと同じで、人間の限りない欲望と執着の量を表しています。それと同時に108の珠は諸仏・諸菩薩の姿でもあり、煩悩のなかには清らかな光輝く仏性が潜んでいるとされています。念珠のオーソドックスな玉数は親玉2・子珠108・四天4・記子20・浄名1・露4とされており、合計すると139になります。そのひとつひとつに意味があり、さらに珠と珠とを繋いでいる中糸は観音様の大慈悲心を表しているとされています。
京念珠は全て手作りで、1日にできあがる数は限られています。紐や房も職人の手によって編まれ、玉通し、糸組、房作りと、丹精込めて仕上げられていきます。職人の手作業によって、丈夫な長持ちする念珠が生みだされていくのです。
出典:「京念珠のすべて」京都数珠製造卸協同組合


〒600-8035
京都市下京区寺町通高辻下ル京極町505
TEL 075-351-0155
www.kyoto-isuke.com

中野恵介 中野伊助10代目
時代の変化とともに念珠店は減少し、京都でも13~14社、全国では20社に満たない程の数に。その大きな理由には日本人のお寺離れや檀家離れ、かつて一家にひとつは置かれていた仏壇が姿を消してしまったことなどの影響が上げられます。しかしそんな背景を踏まえながらも、伝統的な技術を元に新しい製品づくりに前向きに取り組んでいる中野伊助10代目店主・中野恵介氏。新しい市場開拓とともに、今までの宗教用具としてだけではない念珠の形を模索しています。
1990年代の水晶パワーブームを火付け役に、それまでの形が見直され再びスポットを浴びることとなった腕輪念珠(水晶のブレスレット)。一般的に経を読む回数を数えることに使われていた念珠を、お守りの代わりにブレスレットとして持つことが流行しました。中野伊助では作家・家田荘子氏とコラボレーションを組み、腕輪念珠を大々的に販売。同時期には業界を先駆けて通信販売も開始し、より多くの方に念珠を身近に感じてもらえるよう、その土壌づくりに尽力されました。
さらに2012年には京都市が開催する「京もの海外市場開拓事業」にエントリーし、フランス人のデザイナー ルイ―ス・デ・テスタ氏とのコラボ作品で達磨をモチーフにした作品を発表。また、ドイツ人のデザイナー ヨルグ・ゲスナー氏とは髑髏をモチーフにした珠を使用して、伝統と新しいスタイルを融合させた作品を生み出しました。髑髏に込められたのは、再生の想い。古くから伝わる日本の素材に海外デザイナーの手が加わることで今までにはなかった色彩の組み合わせやデザインが生まれ、国内外から高い評価を受けています。
日本人作家やフランス人デザイナーとのコラボ商品の発表に加え、中野恵介氏が取り組まれているのは珠に英語のパワーフレーズを刻んだ製品の開発。『Keep smiling.(笑顔を絶やさないで)』『Believe in yourself.(自分を信じて)』などといった元気の出るパワーフレーズが珠に刻まれており、お守りとして人気を得ています。『You are the one.(あなたこそ理想の人)』といったワードは大切な方への贈り物にもピッタリです。
中野恵介氏が生み出す、伝統的な工芸品と革新的な新商品の融合。革新的な新製品の数々には、「敷居が高く感じられる京都の念珠を身近に感じていただき、時間をかけて世界中の方に知っていってもらえれば」という中野恵介氏の想いが込められています。
京念珠コース
今回の体験は一般的な京念珠作りとは異なり、職人が行う本格的な百八念珠づくりの工程を体験していただけます。本格的な貴重な材料を用いて、職人の技を体感しましょう。

1.こより作り
通常の体験ではナイロンの糸を使って行いますが、今回は高級なシルクの紐を用いてこよりを作っていきます。こよりを作るのは珠を通しやすくするためで、撚りがかかった糸を戻して2本にしていきます。2本に分かれた1本の糸にハサミをあて、こそげていきましょう。
シルクの紐は固いので、ハサミの刃先を差し込んでいく際は力を入れすぎず、刃先で手を突いてしまわないよう注意しましょう。ハサミの腹に指を添え、力を抜いて行った方が上手くいきます。

片方が完成すると再び撚りを戻して、もう片方の糸にも同じことを行っていきます。そうして2本のこよりが完成します。
紐は京都・西陣の紐屋さんから仕入れているもので、当日は紐の色を選んでいただくことも可能です。紐自体が2色の組み合わせでできているので、その表情の違いにご注目ください。次に、完成したこよりの先に先糸を付けます。木綿の糸でしっかりと結び付けていきましょう。

2.珠通し
今回の体験では、非常に貴重な紫檀の珠を使用していきます。本式にのっとり、108つの珠を紐に通しましょう。最後につける親玉は穴がT字型になっているので、横の穴から紐を通して上の穴から紐を出します。もう1本の糸に添わせるように上手く珠を下げていくと、糸が上から出て来ます。次にボサ玉と呼ばれる珠が三つ連なったものを通します。

3.井筒結び
ボサ玉を通すと、井筒結びと呼ばれる縁起の良い結びを行っていきます。捻って輪をつくり、そこにもう片側の紐を通していくという結び方で、非常に複雑な結び方です。通常は5段ですが今回は8段、末広がりという縁起を込めて行っていきます。井筒結びの最後に結び目がほどけない男結びと呼ばれる結びを行い、紐の片先を切り落とし、もう片側は輪のまま残して京念珠の完成です。
体験の最中には、中野恵介氏から京都の密かなパワースポットを教えてもらえる特典も。観光地として知られるスポット以外にも、知られざる京都のパワースポットを知ることができます。
お土産
高級な紫檀でつくられた珠が108つ通された、貴重な京念珠。
紫檀の念珠
ローズウッドとも呼ばれる紫檀はヤニを多く含むため耐候性があり、腐敗せず長持ちすることから仏壇や家具、唐木細工や楽器などに使用されてきました。しかしながらワシントン条約の制定で輸入の制限を受け、入手困難になってしまった紫檀。中野伊助ではかねてから入手していた貴重な紫檀の在庫を用いて、京念珠の製作を行っています。
中野伊助の念珠製作のこだわりは仕上げ作業。同じ材質の珠を用いても、紐を通す穴の部分を丸めず尖ったまま使ったり、穴の中を磨かずにザラザラの状態のまま使ったりすると、摩擦で紐がすぐに切れてしまうそう。そういった細部にまでこだわりが見られる職人の技が、丁寧に随所に施されています。
現代の念珠の使用方法は多岐に渡り、首からそのまま下げたり手首に巻き付けてアクセサリー感覚で使ったり、鞄の中に忍ばせてお守りとして自分の身代わりにしたり。生活の中の身近な存在として、京念珠をご使用ください。
